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江戸前味噌とは?甘口で濃い色をした江戸生まれの味噌の特徴

コラム
江戸前味噌とは?甘口で濃い色をした江戸生まれの味噌の特徴

商品のラベルや飲食店のメニューで、「江戸前味噌」や「江戸甘味噌」という言葉を見かけたことはないでしょうか。名前は聞くけれど、どんな味噌なのか、ふつうの味噌と何が違うのかは、意外とはっきりしないかもしれません。

江戸前味噌は、ひとことで言えば、江戸・東京で親しまれてきた甘口の味噌です。米麹をたっぷり使い、赤褐色の濃い色をしているのに、塩気は控えめで甘みが強いのが特徴です。この記事では、江戸前味噌がどんな味噌なのか、その色・味・原料といった特徴や、独特の作り方、そして江戸の食文化とのつながりまでを順に見ていきます。

江戸前味噌とは?江戸生まれの甘口の味噌

江戸前味噌は、江戸・東京で発達した甘口の味噌で、米麹を大豆よりも多く使う米味噌の一種です。多くの場合、「江戸甘味噌(えどあまみそ)」という名前で呼ばれ、「江戸味噌」と呼ばれることもあります。

呼び名が複数あると、それぞれ別の味噌のように思えるかもしれませんが、いずれも江戸生まれの、米麹をたっぷり使った甘口の味噌を指しています。「江戸前味噌」「江戸甘味噌」「江戸味噌」は、ほぼ同じ意味で使われていると考えて差し支えありません。ただし、文脈によって呼び分けられることもあるため、完全に同じ言葉として割り切るよりは、「同じ味噌を指す、いくつかの呼び名」ととらえておくとちょうどよいでしょう。「江戸前味噌」という呼び方がいつ生まれたのかについては、はっきりした記録が確認しづらく、主に通称として使われてきた言葉です。

味噌には、米を使う米味噌、麦を使う麦味噌、大豆だけの豆味噌などの種類があります。江戸前味噌は、その中で米味噌にあたり、しかも米麹の割合がとても高いところに個性があります。この「米麹たっぷり」という点が、あとで見ていく甘さや色の特徴にもつながっていきます。

江戸前味噌の特徴|色・味・原料

江戸前味噌の4大特徴(甘口/赤褐色〜茶褐色の濃い色/米麹たっぷり/高温・短期熟成)をまとめた図

江戸前味噌の特徴は、原料・色・味わいの3つに分けて見ると整理しやすくなります。順番に見ていきましょう。

原料|米麹をたっぷり使う米味噌

江戸前味噌の主な原料は、米・大豆・塩です。米は蒸したあとに麹菌を育てて「米麹」にし、これを大豆や塩と合わせて仕込みます。米麹とは、蒸した米に麹菌を繁殖させたもので、味噌の甘みや風味のもとになります。

大きな特徴は、大豆よりも米麹をたっぷり使うことです。一般的な辛口の味噌では、大豆1に対して米麹はおおむね0.8ほどですが、江戸前味噌では大豆1に対して米麹をおおむね1.5〜2倍ほど使うとされています。米麹をこれだけ多く使う点が、江戸前味噌ならではの甘さと深く関わっています。

色|光沢のある赤褐色〜茶褐色

江戸前味噌は、光沢のある赤褐色から茶褐色の、濃い色をしています。かつては「紅赤(べにあか)」と表現されることもありました。

濃い色をしていると、つい塩辛い味噌を想像しがちですが、江戸前味噌はそうではありません。色の濃さと塩辛さは必ずしも一致しないというのは、味噌を知るうえで覚えておくと役に立つポイントです。近年は、以前よりやや淡い色のものも見られます。

味わい|塩分控えめで甘くとろりとした口当たり

味わいの面では、塩分が控えめで、甘みが強いのが特徴です。一般的な辛口味噌の塩分がおよそ12%程度とされるのに対し、江戸前味噌はおよそ6%程度と、半分ほどに抑えられているとされています。

塩分が控えめで米麹が多いぶん、米麹由来の甘みがはっきりと感じられます。口当たりはしっとりと柔らかく、とろりとしているのも江戸前味噌らしいところです。この甘みととろみは、あとで触れる江戸の料理とも自然に結びついていきます。

なぜ甘い?江戸前味噌ならではの作り方

江戸前味噌と辛口味噌の作り方を仕込み温度・熟成期間で比較した図(江戸前味噌は約50℃で10〜14日、辛口味噌は常温で数か月〜)

江戸前味噌の甘さは、原料の配合と作り方の両方から生まれています。ここでは、「濃い色なのに甘い」理由を、一般的な辛口味噌と比べながら見ていきます。

まず、原料の面では、すでに触れたとおり米麹を多く使い、塩分を抑えていることが大きく影響します。米麹が多いと甘みのもとが多くなり、塩分が控えめだとその甘みが引き立ちます。

作り方にも独特の点があります。江戸前味噌は、50℃前後の比較的高い温度で仕込み、10日から2週間ほどと短い期間で仕上げるとされています。長い時間をかけてじっくり熟成させる味噌が多いなかで、この短期間で仕上げる作り方は江戸前味噌ならではです。高い温度で仕込むため、微生物の働きは抑えられ、主に米麹に含まれる酵素の働きによって、短い期間で甘みや風味が生まれると考えられています。「発酵」という言葉から連想する長い熟成とは、少し仕組みが異なるわけです。

主な違いを表にまとめると、次のようになります。

項目 江戸前味噌(江戸甘味噌) 一般的な辛口味噌
米麹の量 大豆1に対しおおむね1.5〜2倍 大豆1に対しおおむね0.8ほど
光沢のある赤褐色〜茶褐色 赤色系〜淡色までさまざま
塩分 およそ6%程度(控えめ) およそ12%程度
味わい 甘みが強くとろりとした口当たり 塩気やコクが立つものが多い
熟成 50℃前後の高温・10日〜2週間の短期 常温で数か月以上かけるものが多い

色が濃いから塩辛い、とは限らないことが、この比較からも見えてきます。江戸前味噌は、濃い色をしていながら甘口という、ひとつの分かりやすい例だといえます。

江戸の食文化と江戸前味噌

江戸前味噌が使われてきた江戸の代表的な料理(田楽・どぜう汁・軍鶏鍋・佃煮)を示した図

甘くて濃い江戸前味噌は、江戸のさまざまな料理とともに親しまれてきました。

たとえば、豆腐やこんにゃくに味噌だれを塗って焼く田楽には、甘みのある味噌がよく合います。どじょうを使ったどぜう汁(柳川鍋)や、軍鶏(しゃも)を使った軍鶏鍋など、江戸で育まれた料理に、江戸前味噌は幅広く使われてきたとされています。常備菜として親しまれた佃煮とともに、こうした江戸の食卓を、甘みととろみのある味わいが支えてきたのでしょう。

江戸前味噌は、一部の人だけが口にする特別な味噌というわけではありませんでした。江戸の最盛期には、江戸で使われる味噌のかなりの部分を江戸甘味噌が占めていたとも伝えられており、江戸っ子にとって身近な日常の味だったと考えられています。今の私たちが特定の味噌を当たり前に使っているように、当時の江戸の台所には、この甘い味噌が根づいていたわけです。

江戸前味噌の歴史といま

江戸前味噌が江戸で広まった背景には、江戸の町の成り立ちが関わっているといわれています。天正18年(1590年)に徳川家康が江戸に入って町づくりを始めて以降、この地で改良が重ねられ、江戸っ子に親しまれるようになったと伝えられています。三河の八丁味噌のうまみと、京都の白味噌の甘さをあわせ持つ味噌として家康の命で生まれた、という言い伝えもありますが、はっきりした記録で確かめることは難しく、あくまで諸説のひとつとして語られています。

長く親しまれてきた江戸前味噌ですが、その生産は一度大きく落ち込みました。第二次世界大戦中の食料統制のもとで、米麹を大量に使う味噌づくりが難しくなり、製造が一時途絶えたのです。戦後になって再び作られるようになったものの、大豆の割合が高い辛口の味噌が広く使われるようになり、江戸前味噌の生産は以前ほどには戻っていないとされています。

その一方で、近年は江戸の味を受け継ごうとする動きも見られます。江戸甘味噌は東京都の地域特産品として認証されるなど、地域の食文化として見直され、いまも作り続けている醸造元があります。かつて江戸の食を支えた甘い味噌は、姿を消したわけではなく、今も東京の味のひとつとして受け継がれています。

まとめ

江戸前味噌は、米麹をたっぷり使った甘口で濃い色の、江戸生まれの米味噌です。江戸甘味噌・江戸味噌ともほぼ同じ意味で呼ばれ、塩分控えめで甘くとろりとした味わいや、高温で短期間に仕上げる作り方に個性があります。田楽をはじめとする江戸料理とともに親しまれ、時代の中で生産を減らしながらも、今も受け継がれています。

同じ「味噌」という言葉のなかに、地域ごとにこれほど違う個性があると知ると、いつもの一杯の味噌汁にも少し違った目を向けたくなります。江戸の甘い味噌に触れたことをきっかけに、信州や京都など、他の地域の味噌にも目を向けてみると、味噌の世界はさらに広がっていくはずです。

あわせて知っておきたい 江戸前味噌のこと

江戸前味噌と江戸甘味噌は同じものですか?

ほぼ同じ味噌を指す呼び名です。いずれも江戸生まれの、米麹をたっぷり使った甘口の味噌で、「江戸味噌」と呼ばれることもあります。文脈によって呼び分けられる場合もあるため、完全に同一の言葉というよりは、同じ味噌を指すいくつかの呼び名ととらえるとわかりやすいでしょう。

江戸前味噌はどうして甘いのですか?

大豆よりも米麹を多く使い、塩分を控えめにしているため、米麹由来の甘みが引き立ちます。加えて、高温で短期間に仕上げる独特の作り方も、江戸前味噌ならではの甘みととろみに関わっているとされています。

江戸前味噌はどんな料理に合いますか?

甘みととろみのある味わいから、田楽をはじめ、どぜう汁(柳川鍋)など、江戸で親しまれてきた料理に広く使われてきたとされています。甘口の味噌が好きな方は、こうした料理から親しんでみるのもよいかもしれません。

参考文献